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「ウォーキング授業紹介」京都大学共通教育通信 Vol.9 2007 Autumn

京都大学で「ウォーキング」の授業が開講され、大学広報誌で紹介される

京都大学非常勤講師 岡本香代子

雑誌記事

岡本香代子(おかもと かよこ)
(高等教育研究開発推進機構非常勤講師・歩行開発研究所研究員・医学博士)
専門:新生児から高齢者に至る歩行の筋電図的研究。
歩行の研究で日本バイオメカニクス学会奨励賞を受賞。
執筆活動と全国でウォーキング講演活動を行う一児の母。
主な著書:『筋電図からみた歩行の発達~歩行分析・評価への応用~』・ 『Development of Gait by Electromyography』(歩行開発研究所2007)。

ヒトの歩行動作は生涯にわたり変化していきます。新生児原始(反射)歩行から始まり、生後1~2ヵ月頃の乳児原始歩行、生後6~12ヵ月頃の乳児随意支持歩行へと発達的に変化します。その後、1歳前後に独立歩行を習得し、3歳頃に合理的な筋活動を示す成人型歩行(体直立姿勢で踵着地の歩行)を獲得し始めます。しかし、運動不足や加齢等による筋力・バランス機能の低下が要因で、不安定で過剰な筋活動を示す老人型歩行(中腰・体前傾姿勢で小股すり足的な歩行)へ移行します。筋負担の大きい老人型歩行へ移行すると歩くことが苦痛になり、ますます歩行量が減少します。生涯、今のように歩き続けるためには、できるだけ早い時期から、正しい歩行姿勢を意識することが重要です。

詳しく述べますと、体前傾姿勢の「猫背歩行」は、特に背筋上部の衰えが起因しています。極端な猫背歩行は、下肢(下腿・大腿・臀部)後面の抗重力筋に過度な緊張が生じますので、今から意識して背すじを伸ばすことが大切です。次に、膝が軽く曲がった「膝曲がり歩行」は、大腿前面の膝伸展筋(内・外側広筋等の大腿四頭筋)の筋力が低下し始めています。膝曲がりが極端になると、足が地面についている立脚期に、太もも前面の筋肉に大きな負担がかかります。膝伸展筋(大腿四頭筋)の衰えを防ぎ強化するには、階段・坂歩行やスクワット運動が効果的です。また、踵押し上げ時に働くふくらはぎの筋肉が衰えてくると、小股となり歩行速度が遅くなる「小股スロー歩行」になります。普段から少し大股で速足歩行を心掛けたり、背伸び運動でふくらはぎの筋肉(腓腹筋等)を強化することで、小股スロー歩行を防ぐことができます。よくつまずく人は、下腿前面のすねの筋肉(前脛骨筋)が衰え、着地前につま先があがらず、乳幼児期と同様「すり足歩行」になっている場合がほとんどです。少し大股歩行で踵着地を意識すると、つま先があがり、すり足歩行を防ぐことができます。また、バランス機能の低下により、足の横幅を広げて歩く「2直線歩行」になりますので、1直線上を歩くように心掛け、歩行バランスを維持することも大切です。(1)背すじを伸ばして、(2)1直線上を歩くように踵着地、(3)少し大股で歩くことを意識して行い、努力して続けることが、歩行に必要な筋力・バランス機能を維持し、合理的な筋活動を示す成人型の歩行法を保つ礎となります。

直立二足歩行はヒトの基本的な移動運動です。1歳前後の乳児が支持なしで独立歩行を獲得することは移動運動の中で最も画期的な出来事(milestone)です。私は1歳頃、歩行研究者である父の筋電図実験の被験者として、京都大学で最初の第一歩を踏み出したそうです。私も、歩き初めは非常に不安定でしたが、2年間の反復練習を経て、3歳頃に合理的な筋活動を示す今の歩行を獲得し始めました。京都大学で授業を担当して14年目の2007年度に、運動不足や生活習慣病の改善策として注目されている「ウォーキング」が新しく開講されました。歩行を健康づくりの運動にするには、(1)歩行距離を延ばす、(2)歩行速度を上げる、(3)歩行姿勢を変化させる等があげられます。授業では健康を維持するウォーキング法だけではなく、歩行に必要な筋力とバランス機能を保ち続け、3歳頃に獲得した成人型歩行を生涯にわたり維持する重要性を伝えていきたいと思っています。

京都大学周辺は、世界遺産を含む日本の名所コース(下鴨神社・京都御所・哲学の道・大文字・平安神宮など)に恵まれています。歩行研究をもとに、すてきな「京大ウォーキング授業」を目指し、学生の皆さんと共に背すじを伸ばし、少し大股で歩き続けることを願っています。

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